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2024年11月24日
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大丈夫
2010年11月14日
++大丈夫++
過去の作品です。
未来昌も実は結構好きですv
+ + + + + + + + + + +
「夜中に古い琴から妙な音がするので見て欲しい」
はらり、と文が落とされる。
「何だか寒気がするので、お祓いをしてほしい」
またはらりと、白い前足が文を捲る。
ぷるぷると、その手が震えていた。
その白い物の怪の周りには、読み終えた文が山とあった。
極めつけは最後の一枚だ。
「どうかどうか、子どもの名前を考えて下さいぃ!?」
律儀に全部声に出して読んでから、物の怪は山となった文を踏んづけた。
「揃いも揃ってええええ!!!!」
「もっくん。折角の文を踏んじゃ駄目だよ」
のほほんと咎める声に、物の怪はカッと振り向いた。
「誰のせいだと思ってる!!」
「俺?」
「そうだ!!・・いや、違うな。悪いのはこいつらだが元凶はお前に違いない!!」
物の怪はそれはもう怒っていた。
というか、怒るのが日常茶飯事になっていた。
昌浩は、大陰陽師安倍晴明の後継だ。
そして当代一と呼んでもいいほど、立派な陰陽師になった。
その当代一の大陰陽師には、日々山と依頼が降って来る。
妖退治やお祓いはまだ良い。
だが安産祈願だの今年の運勢を見てくれだの、どうやったら意中の女性を口説けるかだの
果てはお悩み相談まで来る始末。
「大体大体っ、昌浩に恋の悩みを聞いてどうする!!」
「・・・・もっくん、怒るとこ違うくない?」
そりゃ役に立たないけどさ、と口を尖らせる青年は、相変わらず子どもらしい一面を残している。
物の怪が散らかした文を律儀に重ね、一枚一枚目を通すのだ。
別に昌浩は暇なわけではない。
毎日毎日お偉いさんの依頼をこなしつつ、都の安寧をも守っている。
それなのにそれなのに!!
「ええええい!!お悩み相談なぞ他所に回してしまえ!!!」
晴明の頃にも、くだらない頼みごとはあった。
だがその数は極端に少ない。
何というか、晴明には一種の近寄りがたさのようなものがあった。
あの晴明殿にくだらない願いなぞ言ってはならない、
みたいな暗黙の了解があったのだ。
昌浩は違う。
いくつになっても、昌浩はどこか親しみやすい。
未だに兄たちには頭をぐしゃぐしゃーっと撫でられるし
年のいった者たちからは、息子気分で何くれと可愛がられている。
送られてくる文にも律儀に返事をするものだから、誰もが思うわけだ。
ああ、この子になら言っても大丈夫だろう、と。
それが都中の人間なものだから、昌浩は本当に休む暇もない。
「でも、困ってるのは放っておけないし」
「お前がそんなだから皆調子に乗るんだ!!お前も少しは怒れ!!」
地団太を踏む物の怪に、昌浩は笑った。
そりゃ疲れる時も、嫌になる時もある。
「だけどさ、俺が怒る前に周りが怒ってくれるからな~」
最もよく怒るのは物の怪だ。
太陰もよく怒って文を吹き飛ばす。
天后や青龍などは黙って文を火にくべそうになるから驚きだ。
勾陣や六合は怒ることはないが、ほどほどにしておけよと苦く笑う。
行き過ぎれば白虎や玄武に説教を食らうし、体調を崩せば天一が悲しむ。
そうなれば朱雀が黙っていないし、太裳や天空まで出てきたら大変だ。
兄たちも何くれと気にかけてくれ、雑鬼たちまでが遊びに来ては文の整理を手伝ってくれる。
昌浩の周りには本当にたくさんの人がいて、心配してくれて、怒ってくれる。
「だから、俺が怒る必要はないんだよ」
幸せそうな顔で昌浩は言った。
その笑顔に、神将たちは誰も勝てない。
「・・・・・やれやれ・・・」
物の怪は、すっかり毒気を抜かれてしまった。
結局今日も、同じことの繰り返しなのだ。
でもそれは、きっと不快なものではない。
「・・・それに目を通したら、休めよ」
「うん、わかってる」
文を手に取る昌浩の隣で、物の怪は丸くなった。
不快ではない。
こういう昌浩が好きで、皆彼の傍にいるのだから。
大丈夫。
彼が無理をする分だけ、周りが気をつけているのだから。
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