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2024年11月24日
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彼は知っている

2010年08月29日

++彼は知っている++

新しい作品です。
赤子昌浩と紅蓮、現在昌浩ともっくんみたいな感じです。

+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +


安倍邸に新しい家族が加わって、少しした頃だ。
露樹はようやく床から身を起こせるようになり、
吉昌も安堵して出仕して。

安倍邸に残されたのは、嬰児と祖父と、そして人ならざる者たち。




「紅蓮」

主の呼び声に、紅蓮はすぐさま顕現した。
先日久方ぶりに姿を見せたが、その後はまた滅多に姿を見せなくなった神将だ。
先日の召喚の際には予告無く嬰児に出会わせたためか、
その端正な横顔には、少しばかりの警戒の色があった。
残念ながら、晴明はその期待を裏切るつもりはなかった。

「・・・何用だ、晴明」

一筋縄ではいかない主を見下ろし、問う。
答えは至極あっさりと返った。

「ふむ。紅蓮よ。急に出かけることとなった」
「・・・それで?」
「露樹は休んでおる。よって、昌浩を頼む」
「!晴明、お前はまたっ・・・」
「なーに、大人しく寝ておるから問題あるまい」

軽くそう言った晴明は、逃げる間もなく紅蓮の腕に、抱いていた嬰児を押し付けた。
屈強な体躯が、目に見えて強張る。

「待て、晴明!それならば天一か天后か、誰でもいいから他の・・・」
「ほれ紅蓮。ちゃんと持たないと落としてしまうぞ」

紅蓮が、慌てて嬰児を抱え直す。
その必死な様子に微笑んで、晴明はくるりと背を向けた。

「ではな、行って来るぞ」
「ちょ・・・待て!晴明!?」

叫びに近い訴えにも、主は飄々と去ってしまった。


取り残された紅蓮は、途方に暮れる。
嬰児の世話などしたこともなければ、見たことも無い。

すやすやと眠る嬰児は、何やらふにゃふにゃとしており、気を抜けば折れてしまいそうだ。
紅蓮は、全身を緊張させて嬰児を抱いた。
多分、強大な敵と戦うよりも緊張を強いられている気がする。
ならば下ろせばいいものの、動くことすら恐ろしくてできない。

「・・・あ・・・あう・・・」

びくっと、紅蓮の肩が揺れた。
見れば腕の中で、嬰児が不満そうに身じろいでいる。

「居心地が悪いのか?」

問うても答えが返るわけもなく、紅蓮は悶々と試行錯誤する。
もう少し、しっかりと首を支えてやればいいだろうか。
ころりと落ちてしまいそうな頭の下に腕を動かす。

「・・・うー・・・」

嬰児が、満足そうに笑った。
紅蓮の腕の中で。

恐る恐る、柔らかそうな頬に指を伸ばす。
同じ人だというのに、晴明の頬とは全然違う。
爪が触れないよう、指の腹で触れた頬は驚くぐらい柔らかかった。

触れる体温に、嬰児が頬を摺り寄せる。
驚いて指を引くと、不満そうに目を開く。
真っ直ぐ自分を見つめる瞳に、思わず頬が緩んだ。

「・・・昌、浩」

覚えたばかりの名を、密やかに呼ぶ。
自分の名だとわかっているだろうか。
大きな瞳は無邪気に瞬きを繰り返す。

「昌浩・・・」

抱きしめる腕に、そっと力を込めた。






+   +   +



「嬰児って、すごく柔らかいんだね」

昌浩が、はーっと大きく息を吐いた。
下の兄の娘を抱いたのが、余程衝撃的だったらしい。

「もう壊れちゃいそうだし、怖かった~」

でも可愛かったなぁと笑う昌浩に、物の怪は苦笑した。

「おいおい孫や、それぐらいで疲労してどうする。情けないな~」
「孫言うな!」

がおうっと吼えた昌浩が、盛大に口を尖らせた。

「でも本当にふにゃふにゃなんだからな!もっくんは知らないだろうけど」
「おいおい、それぐらい知ってるに決まってるだろう」
「え?」

首を傾げる昌浩に、物の怪は笑った。

嬰児の柔らかさも、温かさも、
壊してしまうかもという恐ろしさも、
そして、思わず微笑んでしまう愛らしさも、
全部お前が教えてくれたのだと。

そう、紅蓮は確かにそれを知っているのだ。




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