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傍にいる
++傍にいる++
新しい作品です。
昌浩が、酷い仕事で辛いことを言われた模様。
未来昌ブーム1人継続中です。
捏造妄想大好きな方へ(笑
今年1年、亀ペースな私にお付き合いありがとうございました。
来年もよろしくお願いします^^
+ + + + + + + + + + +
今度の一件はひどく後味の悪いものだ。
はぁと一つ息を吐き、紅蓮は白い物の怪姿に変じた。
共に出ていた寡黙な同胞は物を言わないが、何とも言い難い疲労感は隠せていない。
「あぁ、戻ったか」
出迎えた勾陳は、珍しく険を隠しもしていない。
「どうした?」
「それはこちらの台詞だぞ、勾」
物の怪は、さっと細い肩に飛び乗った。
「何かあったか」
勾陳は、苦く笑う。
「今しがた昌浩も戻ったところだ」
「それで?」
「いつもの如く、だ」
なんとも言えない思いが胸を刺す。
「いっそ泣いてくれたほうが気が楽なんだが」
誰に聞かせようと漏らした言葉ではないだろう。
しかしそれは物の怪とて気持ちを同じくするものだ。
一体いつからか。
問われても正確に返せる自信はない。
一番傍にいるはずの物の怪でさえそうなのだから、
他の誰に聞いても同じだろう。
十二神将が主と仰ぐ安倍昌浩は、若い身ではありながら
当代一と称される陰陽師である。
偉大なる大陰陽師安倍晴明を祖父に持ち、ここに至るまで
様々な困難にぶつかっては乗り越えてきた。
まだ昌浩がよちよち歩きを始めた頃のこと。
危なっかしい足取りで歩く子どもは、よく柱に激突しては
ころりと後ろに転がっていた。
大きな瞳を潤ませて、赤くなった額を摩る幼子。
それでも諦めずに進もうとする姿を、紅蓮もハラハラと見守ったものだ。
あの姿と、とてもよく似ていると思う。
あの子の行く先には、何本もその歩みを邪魔するかのように柱が聳えていた。
そこに正面から頭をぶつけては、ひっくり返る。
倒れて、泣きそうになりながらも歩みを止めない。
見ているこちらは堪ったものではないというものだ。
まだ、辛いだの痛いだの、もう嫌だだの、言ってくれれば良い。
だが昌浩は言わない。
いつからか泣くこともしなくなった・・・否。
赤子の頃からあまり泣き喚くような子ではなかったが。
そんなことをつらつらと考えながら来たものだから、
開口一番、主に言われた言葉はこうだった。
「どうしたんだよ、そんなに険しい顔で」
悩みの種は、あっけらかんと物の怪に問いかけた。
物の怪は険しい顔を崩せず、助走なしで昌浩の肩に乗った。
一番近くで横顔を見る。
隠せぬ疲労が、痛々しかった。
「ご苦労様」
よしよしと、労るように毛並みを撫でられた。
「ご苦労はお前だろうが」
「そう?残りをもっくんと六合が片付けてくれたから、随分楽だったよ」
昌浩は人を傷つけるのが嫌いだ。
誰かが傷つくのを見るのも、大嫌いだ。
恨み、憎しみ、呪い。
陰陽師である限り、見ないではいられないもの。
決して人を傷つけない。
幼い陰陽師の誓いは、果たせるはずのないものと誰もが知っていた。
それでも尚、輝きを失わずにいられるのか。
昌浩はその稀有な性質の持ち主に成り得た。
「人は俺を神のように言うよね」
ふっと、落とすように昌浩は笑った。
「あぁ。・・・だが、お前は人だ」
例え何の血を引いていても。
どんな術を使えようと、だ。
「決して傷つかないわけじゃない」
物の怪の言葉に、昌浩は微笑んだ。
うんと、答える声が幼子のようで。
「じい様も、こんな思いをしたのかな」
「お前たちは似ているからな」
「じゃぁ、じい様も大丈夫だったよね」
訝る物の怪に、昌浩は子どものように笑った。
「こうしてもっくんたちがいたもんね」
誰に何を言われようと。
何をしようと。
変わらず傍で、支えてくれる。
わかってくれる者がいる。
それは大きな力になる。
真っ直ぐな思いを真顔で受けることができず、
そっぽを向いた物の怪は、その尾で主の頬をぺしりと打った。