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現パロ(比古+昌)①
新しい作品です。
比古と昌浩がきゃっきゃしてたらいいなーと思い(笑
とりあえず①は、ちっこい比古メインです。
真鉄とたゆもゆと、あとチビ昌も出てきます。
ちゃんと紅蓮もいますが、今回は空気だけです(笑
+ + + + + + + + + + +
比古の家は由緒正しき神社だ。
全部で50段ある階段を上りきると、朱色の鳥居に出迎えられる。
両脇には狛犬・・・ではなく、狐・・・でもなく、狼の像が建っている。
階段を上りきり、僅かに息を乱した子どもの前で、その像がのそりと動き出す。
灰白と灰黒の大きな狼は、珂神の家を守る、人ならざるものたちなのだ。
「おかえり!比古!」
巨大な狼に突進を食らい、5歳の比古はころりと後ろにひっくり返った。
地面にぶつかりそうな身体の下敷きになったのは、もう一匹の狼だ。
「こら!比古が怪我でもしたらどうするんだ!」
「ああ!ごめんよ比古、たゆら」
灰白の狼が、しおしおと項垂れた。
「いいよもゆら。おれ、大丈夫だよ」
よしよしと大きな狼を撫でてやる。
嬉しそうに頬を舐める狼と、背中を守ってくれる狼と。
子ども一人よりよほど大きな狼に埋もれ、比古はあっぷあっぷする。
いつも変わらぬその光景を、少し離れた場所で見ていた少年が、
はぁと息を吐いて近寄ってきた。
「・・・たゆら、もゆら。比古が潰れる」
真っ黒な学生服に身を包むのは、比古より10歳年長の従兄弟だ。
中学生にしては長身な少年は、狼の中から比古を掘り起こし、ひょいと腕に抱えた。
「真鉄」
「おかえり、比古」
汗ばんだ額を、真鉄の手が撫でる。
大きいのに指は細長くて、すこしひんやりとした手だ。
比古は、この手が世界で一番好きだった。
「ただいま」
両親のいない比古にとって、神社を預かる遠縁の老人と、真鉄と2匹の狼が家族だった。
代々珂神の家は神社の御神体を守ってきたらしく、比古は次代の神主になることが決まっていた。
御神体が何なのかは、神主である老人しか知らない。
ただ、御神体は決して世に出してはならず、延々と守らねばならぬものだと聞く。
当初、珂神の家を継ぐのは真鉄のはずだった。
しかし5年前に比古が生まれて、状況が変わる。
珂神の家には不思議な力を持つものが稀に生まれるが、比古は中でも力が強く生まれついた。
それまで一番だった真鉄を凌ぐ力である。
結果、後継ぎは比古。真鉄はその守役となったのだ。
もう少し比古が小さかった頃、真鉄に聞いたことがある。
――おれがいなかったら、まがねがえらくなってたのに。
泣きながら言う比古を抱きしめて、真鉄は言った。
――俺は比古が生まれて嬉しい。
珂神の家を継ぐことは、一族の頂点に立つ栄誉ばかりが手に入るわけではない。
それに似合う重責と、御神体を守る役目も課されるのだ。
生まれた当初から両親と引き離され、半ば人身御供の如くこの神社に縛り付けられる一生。
変わってやれるものなら変わってやりたいが、天性の才を覆すことはできない。
真鉄は嬉しかった。
10歳の時、初めて比古と会った時。
初めて守るべき存在に出会えて、
守ってやらなければいけない存在に出会えて。
だからこの身に変えて守る。
その重責を代わってやれないのなら、共にその責を負ってやりたい。
比古は何度も何度も真鉄に尋ねる。
自分がいなかったら、真鉄が珂神の家を継ぐことができるのに、と。
その度に真鉄は答えてやるのだ。
比古が生まれて、本当に嬉しいのだと。
「あっ、」
ふいに、腕に抱えた比古が顔を上げる。
慌てたように身じろいで、真鉄の腕から下りたがった。
「真鉄、おろして!」
抱えた身体を地面に下ろすと同時に、長い階段を上りきった者が姿を見せる。
比古より頭半分は小さいだろうか。
頬を真っ赤に染めた小さな子どもが、整わぬ息のまま笑った。
「ひこ!あーそーぼ」
にこっと笑ってすぐに、疲れきった足がカクリと折れる。
ころんと後ろに転がってしまった子どもに、比古が慌てて駆け寄った。
「昌浩!」
咄嗟に滑り込んだもゆらのおかげで無傷の子どもは、嬉しそうに比古に両手を伸ばした。
子どもの名は安倍昌浩。
ご近所に住む4歳の男の子だ。
「昌浩、腕すりむいてる!」
「あのねぇ、とちゅうでね、ころんだ」
「ええ!?もう、呼んでくれたらおりるのに」
比古が、途端にお兄ちゃんの顔になって昌浩を叱った。
その様子を、真鉄は微笑ましく見守る。
2ヶ月前。
この街に、あの子どもはやってきた。
母親の実家で生まれた昌浩は、暫く父や兄弟と離れて暮らしていたのだ。
元々子どもの少ない地域で、同じ年頃の子どもがいなかったこと。
自身の持つ不思議な力。
それらのせいで、比古は1人ぼっちでいることが多かった。
実の兄のように傍にいる真鉄と、人ならざる狼だけが友達。
そんな比古の状況も、2ヶ月前に一変することになる。
――わぁ、わんちゃん!
祖父に手を引かれ、初めてここに現れた時。
小さな子どもは歓声を上げて狼たちを指差した。
徒人には決して見えないはずの、たゆらともゆらを、だ。
2匹はもちろん、真鉄も驚いたものだ。
真鉄にとって驚きだったのはそれだけではない。
珂神の一族の中で、若輩ということもあってか比古は大人しい子どもだった。
真鉄に対する負い目か、視線を落とすことも多く、人前で滅多にしゃべらない。
そんな比古に、昌浩はすぐになついてしまった。
ころころ後を付いて回り、と思えばこてんと転んだり。
気付けば比古は、すっかり面倒見の良いお兄ちゃんになっていた。
今では昌浩の前では絶対抱っこを嫌がるし、真鉄に甘えることもない。
そして何より、明るくなった。
「ひこ、こうえんいこ!」
「いいよ。でもちょっと待って」
比古が、たたっと駆け戻ってくる。
「真鉄!昌浩とあそんできていい?」
「あぁ。暗くなる前に戻るなら」
「うん!」
パッと顔を輝かせ、比古が駆けて行く。
その後を、音も無く灰黒の狼が追っていった。
あれがついているなら、比古の身は案じる必要はない。
まして、昌浩の傍にも、人ならざる者が付き従っているはずなのだ。
一瞬、空気がゆらりと揺れたのを感じ、真鉄は瞳を細めた。
「昌浩。危ないから、手」
神社の階段は、滑り落ちたらただでは済まない。
1人で降りては駄目だと、両親たちからもきつく言われているのだろう。
小さな手が、しっかりと比古の手を握った。
「1段ずつ、ゆっくりおりるんだよ?」
「うん」
素直に頷いた昌浩が、比古に続いて階段を下りる。
比古は知っている。
昌浩も、比古と同じ特別な存在だということ。
昌浩の祖父は、何だか凄い人物だ。
比古は魔法使いだと思っているが、それを真鉄に言うと微妙な顔をされてしまった。
昌浩も祖父と同じで、不思議な力を持っているらしい。
比古もよく徒人には見えないものが見えるが、昌浩の目はもっと凄い。
時々ボーっと変な方向を見ていることがあって、大抵そこには人ならざるものの気配がある。
比古の目にも見えないものを、昌浩は見ることができるようだった。
だからこそ危うい。
初めて会った時、真鉄は昌浩をそう評した。
幼い身体に強すぎる力は毒にしかならないのだと。
難しい顔で、難しいことを言っていた。
それを聞いた時、比古は心に決めたのだ。
「大丈夫だよ、おれがいるんだから」
昌浩の傍には、いつも人ならざるものの気配がある。
たゆらともゆらが比古を守るように、昌浩にもそういう存在があるのだ。
今も、危なっかしい足取りの子どもを案じるように、風が不安そうに動いている。
比古は、それに言い聞かせるようにもう一度呟いた。
「大丈夫。おれがまもる」
自分の手を、小さな手が一生懸命握ってくる。
比古は、この手が世界で二番目に好きだった。
初めて、自分よりもか弱い存在に出会った。
初めて、守らなければいけない存在に出会った。
自分を頼りにして、自分を必死で追いかけてくる小さな姿。
全幅の信頼を寄せてくる大きな瞳。
一心に伸ばされる、小さくて温かい手。
だから比古は、もう寂しくなんかないのだ。