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お父さん
新しい作品です。
現代設定ですが、比古は出てきません。
今回は安倍家メインで。
「ヒ/ー/ロ/ー」のプロモいいよねって妄想。
私は本当に昌浩を泣かすの好きだよね。
+ + + + + + + + + + +
安倍家の末っ子は、小学2年生になった。
近所に1つ年上の比古がいるせいか、少々人見知りの気がある末っ子は、
周囲が心配するほどのことはなく、毎日元気に学校に通っている。
安倍家の末息子の名は昌浩。
上に兄が2人あるが、既に結婚して家を出ている。
一般家庭にしては広大な純和風な自宅には、現在両親と昌浩、そして祖父が暮らす。
人外の者を除けば、4人暮らしとなろうか。
さて、冬のある日のことである。
今年は例年以上の寒さが続き、天候も不安定な毎日だ。
昌浩の父は天文学研究所に勤めており、この折の異常気象の研究に明け暮れ
ここ数日いつにも増して帰りが遅かった。
ようやく帰ったと思えば、荷物を纏めて3日の泊り込みだ。
折り悪く母親が体調を崩し、祖父がその看病に忙しくしていたため、
昌浩は1人大人しく遊ぶ羽目になっている。
聞き分けの良い子どもは、特段不平を口にすることなく、人外の者らと良い子にしている。
しっかりした子に育ったものだと、遊び相手をしていた騰蛇が感心するほどだ。
「ねぇ、ぐれん」
「うん?」
1人でパジャマに着替えた昌浩が、布団の上にちょこんと座る。
「きょうね、もうちょっとおきててもいい?」
珍しい申し出に、騰蛇は首を傾けた。
「どうした?」
「あのねぇ、おとうさんかえってくる」
「・・・あぁ、そういえば今日は帰れそうだと言っていたな」
仕事が落ち着いたから、今日は21時前には帰れそうだと、夕方連絡があった。
1週間ほどまともに顔を合わせていないから、昌浩も寂しいのだろう。
「おとうさんに、みせたいものがあるんだよ」
「見せたいもの?」
「まだないしょ」
昌浩が、えへと笑う。
何やら嬉しそうな様子に、騰蛇は目を和ませた。
「10時までには絶対寝るんだぞ」
くしゃりと小さな頭を撫でると、元気な返事が上がった。
かくして、父・吉昌は宣言通り、21時少し前に自宅に帰りついた。
久々の帰宅なので、回復しつつある母・露樹も迎えに出る。
無論待ちかねた昌浩は、既に玄関に到着済だ。
「おとうさん、おかえりなさい!」
「お帰りなさい、あなた」
出迎えられた吉昌は、疲れの滲んだ顔にようよう笑みを浮かべた。
若干足元がふらついているのは、徹夜が続いたせいだろう。
「ただいま」
靴を脱いだ吉昌の足元で、昌浩がはしゃぐ。
「おとうさん、あのね、まさひろね」
「昌浩」
ぴょんぴょん跳ねる息子を、露樹が留める。
「お父さん疲れているから、お話は後にしようね」
ぴたりと、昌浩が動きを止めた。
両手に持っていたものを、慌てて後ろに隠す。
「昌浩、ちょっとだけ我慢してね?」
「・・・うん」
良い子良い子と頭を撫でる母の手は、まだ少し熱い。
父は随分と眠そうだし、母の体調は万全ではない。
我侭を言ってはいけない状況だと、聡い子どもは直ぐに察した。
布団を整えた騰蛇と、たまたま姿を見せた勾陣が待っていた部屋に
とぼとぼと、目にも明らかに落ち込んだ昌浩が戻ってきた。
「吉昌に会えなかったのか?」
しょんぼりと項垂れた子どもが、首を横に振る。
「おとうさん、しんどいから、がまん・・・」
子どもが、手にしていたものを握り締める。
1枚の原稿用紙だ。
「がっこうでね、さくぶん、かいた」
原稿用紙には、のびのびとした字が並んでいる。
最後の行には、大きな花丸が付いていた。
「まさひろ、はっぴょうしたんだよ。それでね、はなまるもらった」
だからお父さんに聞いてもらいたかったんだと、項垂れた子どもは言った。
余りに落ち込んだ様子に、騰蛇と勾陣は顔を見合わせる。
「・・・昌浩」
勾陣が、昌浩の傍に片膝を付く。
「では、私たちの前で発表してくれるか?」
素直に顔を上げた子どもが、ぱちくりと目を瞬かせた。
「ぐれんと、こーちん?」
「あぁ。騰蛇がぜひ聞きたいそうだ。無論私もな」
「・・・勾」
何を勝手にと抗議しようとした騰蛇だが、子どもの目を向けられて押し黙る。
子どもの目には、明らかに嬉しそうな輝きが宿っている。
答えを待ち望む瞳の輝きに、騰蛇は決して勝てないのだ。
「・・・聞かせてくれ、昌浩」
それで子どもが喜ぶなら。
騰蛇の願い通り、昌浩は嬉しそうに笑って頷いた。
「『ぼくのおとうさん』」
昌浩が、たどたどしく作文を読み上げた。
「ぼくのおとうさんは、おてんきをけんきゅうしています」
――お仕事は、すごく忙しいです。
帰って来るのが遅くて、あんまり会えません。
一緒にご飯を食べないし、一緒にお風呂も入りません。
一緒に遊べないし、宿題も教えてくれないです。
でも
語尾が少しずつ弱くなって、とうとう言葉が止まってしまう。
一緒に遊べないのくだりから、嬉しそうだった顔から笑顔が消えて、
大きな瞳がうるうると涙の膜を張る。
「でも・・・でも、ぼくはおとうさん、だいすきです」
とうとう大きな瞳から涙が零れて、原稿用紙にポツリと落ちる。
慌てて目を擦る子どもを、騰蛇は抱きしめていた。
拍手の代わりに、小さな身体を包み込むと、益々子どもは涙を零した。
ぐしぐし顔を拭う子どもの背を、あやす様に摩る。
いくら聞き分けが良くとも、まだ甘えたい盛りの子どもだ。
仕事で疲弊しきった大人と。
一生懸命我慢して、良い子でいた子どもと。
どちらを尊重するのか、十二神将が判断するのは一瞬だった。
すすり泣く子どもをあやしながら、騰蛇が頷くと、
無言で立ち上がった勾陣が、音も無く部屋を出て行く。
その後問答無用で引きずってこられた吉昌が、
愛息子の作文に号泣したのは、言うまでもないだろう。