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2024年11月24日
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初恋の人

2011年02月20日

++初恋の人++

新しい作品です。
完全に妄想だということをどうぞご理解ください(笑
とりあえず昌浩はモテるだろうよって話です。えへ

+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +


「少し、ご相談が」

妻が何やら悩ましげにそう切り出したのは、家族揃って夕餉を済ませた後のことだ。

「どうした」

成親は、首を傾げる。
妻は言葉を選ぶ風に、ゆっくりと話し始めた。

「実は・・・姫が」
「?」

姫というのは成親の末娘だ。
まだまだあどけなさの残る娘は、親の欲目もあろうが大層可愛らしく育ったものだ。
成親始め、兄二人からも大切に育てられた姫は今年ようやく7つになった。
その姫がどうしたというのか。

首を傾げる成親は、続いた言葉に本気でむせた。

「・・・恋の歌を、贈りたいと」
「ぶほっ」

げほげほとむせる夫の背を、篤子は撫でた。
やはりもう少し言葉を選ぶべきだったろうか。

「げほっ・・・何だと?」
「ですから、恋の歌を教えてほしいとせがまれました」
「・・・姫はまだ7つだろう」

成親は眉間に深い皺を刻んだ。
そりゃいつかは娘も誰ぞの嫁になるだろうが、それはまだまだまだまだ先の話だ。
大体、成親の許しなく娘と文を交わすなど・・・

悶々と相手を呪いかねない夫に、篤子は呆れた顔をした。

「まだ7つのあの子に通う相手がいるはずもないでしょう」

篤子は頬に手をあてた。

「まぁ・・・意中の相手がいるのは間違いないようですけれど」
「何?」
「7つでしたら、憧れている相手がいても不思議ではありませんよ」
「ううむ・・・」

認めたくはない。
成親は唸った。
何せ、つい近頃まで“ひめは、ちちうえが一番すき”と言っていたのだ。

「・・・で、その相手というのは」
「それが教えてくれないのです」

篤子が歌を誰に贈りたいのと尋ねると、やっぱりいいですと逃げてしまったのだ。
そりゃ娘にはまだまだ早い話だが、本当に憧れている相手がいるなら
どんな相手か、家柄はどうか、母親としては気になるところだ。
つり合う相手ならば良いが、各段に身分が違えば、色々と手回しも必要になる。

「子どもはあっという間に大きくなりますから」
「・・・一理あるな」

成親は渋々頷いた。
そこらの馬の骨には死んでも娘はやらないが、娘が心底愛して、
一緒になりたい相手がいるのなら、親としては結ばれるよう尽力してやりたい。
もし手回しが必要な相手なら、確かに早すぎて困ることはないだろう。

「よし、それとなく姫に尋ねることとしよう」

ひょいと立ち上がった成親は、篤子と共に姫のもとへ向かった。





結果として、7つの娘は頑として口を割らなかった。
成親がいかに宥めても、篤子が言葉巧みに促しても相手の名を口にしない。
だが、女房によればいそいそと歌の練習をしているというのだ。
一体誰に贈ろうというのか。
こうなれば贈るところを押さえるしかあるまいと考えていたところ、それは起こった。

その日、成親の傍で、子どもらは仲良く遊んでいた。
忙しい父が一日邸にいるということで、子どもらが成親の傍にいたがったのだ。
客人が来たと知らせを受けたのは丁度その頃で、相手が気兼ねする必要のない
相手だったので、成親はすぐに通すように告げた。
ほどなくして、来訪者はひょっこりと一家団欒の場に顔を出した。
あっと声を上げた息子2人は、途端に喜色を顕にした。

「昌浩兄さま!」

成親の末弟である昌浩は、甥に纏わりつかれても、面倒そうな素振りは一切なく
にこやかに笑った。

「兄上、お休みのところすみません」
「何、構うな」

息子2人に導かれ、昌浩が室へ入ってきた。
二十歳近くになった末弟は、今や押しも押されぬ大陰陽師となっている。
陰陽寮で中核を成す働きをこなし、その合間を縫ってひっきりなしに貴族から依頼を受け、
夜には都の安寧のため走り回り。
多忙を極める立場ではあるが、素直さも真摯さも失うことなく成長した。
皆にとって頼りがいのある昌浩は、成親にとっていつまでたっても可愛い弟だ。

「近くまで来る用があって、久々に皆に会いたくなったので」

昌浩が、にこりと笑った。

「国成も忠基も元気そうで・・・姫も」

昌浩に声をかけられた姫は、ぴゃっと飛び上がって成親の後ろに隠れてしまった。
どうしたのだと目を丸くして尋ねるが、ぷるぷると首を振るばかりだ。
その顔が、耳まで真っ赤なのを見て取って、成親は全てを了解した。
了解はした、が。

「兄上?」

まじまじと眺められ、昌浩は首を傾げた。

昌浩は祖母に似たと言われる、線の細い顔立ちだ。
その宮中でも評判の顔立ちに加え、昌浩は優しい。
思いを寄せる姫君も一人や二人ではないと専らの噂だ。

馬の骨どころか、どこへ出しても恥ずかしくない弟だと成親は思っている。
婿としては申し分のない相手。
それを言えば、昌浩の式神たちには兄馬鹿だと言われるだろうが。

「ううむ・・・」
「兄上、どうしたのですか」

成親は頭を抱えた。
いやはや、確かに文句の無い相手ではある。
憧れる気持ちもわかる。
わかる、が。

姫よ、父がどうにもできない相手を思うのは、勘弁してくれ。

父であり兄である成親の苦悩は深い。


 

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