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2024年11月24日
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寝ないで待ってる
2010年09月26日
++寝ないで待ってる++
新しい作品です。
タイトル通りな話です。
成親兄上のある意味受難(笑)
+ + + + + + + + + + +
新しい作品です。
タイトル通りな話です。
成親兄上のある意味受難(笑)
+ + + + + + + + + + +
その日、所用があった昌親は、いつもより早く仕事を終えていた。
所用を片付け家路についた頃には、日はとっぷり暮れている。
家族はとうに眠りにつく時刻だろうか。
邸とは別の方角へ寄ったため、帰り道はいつもと違う。
それでもやはり星空はどこから見ても変わらないなぁと、
のんびりと夜道を歩いていたところだ。
ふいに、慌しくかける足音が近づいてきた。
足音だけではない。
賑やかな・・・
そう、徒人には聞こえぬ、夜の住人たちの声も、である。
「ほら、急げ急げ!」
「早くしないと怒られるぞ~」
「怖いぞ~」
賑やかな囃し声に、怒鳴る声が重なる。
「ええい!少し黙っていろ!!」
聞き覚えのある声に、昌親は目をぱちくりとさせた。
「・・・兄上?」
道端にぽかんと立つ弟を見つけ、成親は、おうと暢気な声を上げた。
「なんだ、昌親じゃないか」
タッタッタっと成親はその場で足踏みする。
「そうか、今日は別件で出ていたのだったな。万事滞りなく終えたか?」
「えぇ。それは問題なく・・・・時に兄上」
昌親は一向止まる気配無く足踏みを続ける兄に、首を傾げた。
「随分とお急ぎのようですが、何かありましたか?」
「ん?いやそれが、少々難儀なことに・・・・」
まとわりつく雑鬼を払い落とし、成親は言った。
「とりあえず、疲れていなければ走っても良いか?話は追々」
「はぁ・・・?」
言うやいなや走り出した兄に、一息遅れて昌親は続いた。
「倒れた!?」
昌親が青褪めるのを横目で見、成親は大きく首を横に振った。
「いや。正確には倒れた同僚を受け止めようとして、一緒にひっくり返った、だ」
たったか走りながら、成親は事の次第を話し始めた。
体調を崩した同僚が、仕事の最中に倒れたのは昼を過ぎた頃だろうか。
大きな荷物を抱えた同僚がふらりと倒れ掛かった時、成親は一番傍に居た。
故に手を伸ばして受け止めようとしたが、如何せん荷が重すぎた。
荷物の山とともにひっくり返った2人に、一時辺りはちょっとした騒ぎになった。
その騒ぎがどう間違って伝わったのか、折り悪く出仕していた祖父・晴明のもとに、
「成親どのが体調を崩されて倒れてしまった」と知らせに走った者があったのだ。
そして更に間の悪いことに、本日晴明に付き従っていたのは太陰と玄武だ。
成親の母代わりとも言える天后や天一に知らせないといけないと言って、
玄武や晴明が止める間もなく、太陰は安倍邸に事の次第を知らせてしまった。
そして最も間の悪いことに、太陰が飛び込んだ先では幼い末弟が遊んでいた。
一緒に遊んでいた天一が青褪めるのと同じく、子どもも大きな目を見開いて固まったらしい。
その後、情報の誤りが判明し、すぐさま玄武が成親が倒れたのではないと伝えたのだが。
「昌浩は、さっぱり納得していないらしくてな」
兄が倒れたというのが余程衝撃だったらしく、他の者の言葉が耳に入らないようなのだ。
「かくして、先に玄武、次に太裳が早く帰邸したほうがいいと言ってきた」
「といいますと?」
成親が、困ったように眉を下げた。
「どうも、兄の無事な姿を見るまで、寝ないで待ってると言い張っているらしい」
昌親は、ぽかんと口を開けた。
「・・・それは・・・まさか今も、ですか?」
「今日に限って忙しくてな。さっきも太陰が泣きそうな顔で早く帰れと怒っていった」
成程、それで急いでいたのか。
昌親は納得した。
幼い弟は、とうに眠る時刻を過ぎている。
それが頑張って起きているのだと知れば、兄としては何としてでも早く戻ってやりたいだろう。
増して、昌浩に夜更かしをさせれば、恐らく彼が怒っている。
太陰が泣きそうだったのも頷けよう。
昌親も、子どもの時分であったなら、間違いなく泣いていただろう。
「兄上、彼の怒りが爆発せぬうちに、戻りましょう」
「全くだ」
彼に怒られるのは心底御免だと、成親たちは駆ける足を速めることにした。
「・・・昌浩」
こしこしと、目を擦る子どもの前に、長身の男が顕現した。
一体何度目になるか知れぬ、苦い息を吐いて。
「いい加減に、諦めるんだ。眠いんだろう?」
昌浩は、ぷるぷると首を振った。
「ねむくないもん・・・」
「嘘を吐け」
子どもの頭は、さっきからぐらぐらと揺れ通しだ。
いつ倒れてしまうか、見ているこちらは気が気でない。
「成親が戻れば、起こしてやる」
「やだ・・・まさひろ、おきてまってる・・・」
頑なに意思を曲げないところは、彼の祖父にそっくりだ。
全く、嫌なところが似たものである。
「・・・それにしても、何をしているんだ成親は」
長身の男は、ギリッと歯を鳴らした。
これも全て成親が悪いのだ。
紛らわしい真似をした上に、てんで帰る様子がない。
半ば八つ当たり気味に呟けば、傍らに顕現した女性がくすくすと笑った。
「おいおい、それは余りに成親に気の毒だろうて」
柱に凭れた女性は、顎をくいと動かした。
「どうやら、息せき切って戻ってきたようだしな」
男が顔を上げるのと同時に、慌しく2人の兄たちが邸に駆け込んできた。
両親への挨拶もそこそこに、すぐに賑やかな足音が近づいてくる。
今にも眠ってしまいそうな幼子が、ぱっと顔を上げた。
「昌浩!すまん待たせた!!」
飛び込んできた成親は、いきなり冷ややかな男の視線に出迎えられ、
ぎくりと肩を強張らせた。
「騰、蛇・・・」
ひやりと背中から冷たい汗が流れ落ちる。
知らず一歩引いたのを見てか、長身の男はふいっと顔を背けて姿を消した。
途端に押し潰されそうな神気が消え、思わずほうっと息を吐く。
「あにうえ!」
体の力を抜いた成親に、小さな体が飛びついてきた。
それを危なげなく受け止めて、成親はようやく微笑んだ。
「昌浩、ただいま」
「あにうえ・・・げんき?」
「この通りだ。心配かけてすまなかった」
小さな弟は余程緊張していたのだろうか。
兄の笑顔を見て安心したらしい。
ふーっと体から力が抜けたかと思うと、あっという間にすやすやと寝息を立ててしまった。
寝つきの良い弟らしいことだ。
安心しきった寝顔を見つめ、成親は固く心に誓ったものだ。
今度からは、一層自分の身を大切にしよう、と。
小さい弟の心を傷つけるのは二度と御免だし、何より騰蛇が怖い。
それを言えば、上の弟は、全くですと笑って頷いていた。
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