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2024年11月24日
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年の瀬

2010年12月31日

++年の瀬++

新しいお話。
除夜の鐘の風習はまだないっぽいんですけど
煩悩の話が書きたくて(笑
チビ昌とじい様の、のほ~んとした話です。

あれですね、もう今年も終わりです。
今年一年お世話になりました。
またのんびりぼちぼち頑張りますので
来年もどうぞよろしくお願いします^^

+  +  +  +  +  +  +  +  +  +  +



「そろそろ眠らないと、体に障るぞ」

晴明は、書物から顔を上げた。
肩越しに見れば、珍しく十二神将最強を誇る2人が顕現している。

「何じゃ、珍しいの」

勾陣はともかく、紅蓮がこちらへ姿を見せるのは久々だ。
末孫がもっと小さい頃はしょっちゅうこちらへ現れていたが、
かの子どもの見鬼が封じられて以来、召喚でもせぬ限り、顕現しない。

「・・・年の瀬ぐらい、顔を見せろと、勾が」

不機嫌そうな顔で同胞を睨む紅蓮だが、対する勾陣は涼しい顔だ。
同胞とは言え、紅蓮にこのような態度が取れるのは勾陣ぐらいのものだろう。

「こうでもしないと、お前は異界の片隅で・・・」

勾陣が言葉を止める。
同時に、紅蓮が顔を上げた。
どうしたことかと訝る晴明の耳にも、すぐに小さな足音が聞こえてきた。
スッと、音も無く2つの影が隠行する。
気配は傍にあるが、見鬼のない者には、存在すら認識できない。
案の定、ひょっこり顔を出した子どもは、晴明のみを視界に捉え、にこりと笑った。

「じいさま」

様子を窺う末孫に、晴明は破願した。

「昌浩」

おいでおいでと手招きすると、5つになる子どもが小走りに駆けて来る。
それでもまだまだ小さい体は、晴明の膝の上にすっぽりと収まった。

「随分と夜更かしじゃな、昌浩」

晴明の胸に寄りかかり、子どもは難しそうな顔をした。

「あのねぇ、“ぼんのう”がおおすぎてね、こまってたの」
「煩悩?またえらく難しい言葉を知っておるな」

晴明は苦笑した。

昌浩の拙い話をまとめると、こうなる。
年の瀬ということで、親族の面々が年明けにかけて安倍邸に顔を出す。
その彼らが、酒の席で話していたというのだ。
年を越すに当たって、今年も煩悩を払わねばなりませんね、と。
父の隣で行儀良く座っていた昌浩は、父に問うたのだ。
煩悩とは何か、と。

父・吉昌は説明に苦慮したようだ。
まさか5つの子どもに、難しい言葉で説明するわけにもいかず、
具体的に欲望だの執着だの憎悪だの、説明するのも憚られた。
悩んだ末に、吉昌は、もの凄く簡単にまとめてみたのだ。

「誰かのことを、ずっと嫌いだったり、あれもしたいこれもしたいって欲しがる心だったり・・・」

昌浩は、それを聞いてからずっと困っているのだ。



「まさひろね、きらいなひと、いないんだけど・・・したいっていうの、おおくって」

年を越すに当たって、それらの煩悩を払うというのは、難しいというのだ。
吉昌の苦しい説明と、思い悩む末孫の様子に、晴明はくっくっと喉を鳴らす。

「それで、昌浩がしたいというのは、どんなことなんじゃ?」
「えっとね。いーっぱい、じいさまのお手伝いしたい、でしょ」

一つ、昌浩が指を折った。

「それからねぇ、あにうえといっぱいあそびたい」

父上とも遊びたい。
母上とも遊びたい。
雪遊びがしたい。
お出かけもしたい。
桃が食べたい。

一つ一つ、懸命に指を折る姿に、晴明の笑みは深まる。
何ともまぁ、可愛らしい煩悩ではないか。

「それからそれから、おっきくなりたいでしょー」

それはお願いごとではないか。
晴明は声をあげて笑った。

「あとね!」

昌浩が、晴明を仰ぎ見た。
大好きな祖父の膝の上で、嬉しくて仕方がない様子だ。

「まさひろ、じいさまと、ずうっといっしょにいたいなぁ」

不意をつかれた晴明は、目をぱちくりと瞬かせた。

「・・・そうか」

晴明の目が、優しく細められる。
小さな頭を撫でて、微笑んだ。

「昌浩は、良い子じゃなぁ」

年の暮れる中、笑い合う祖父と孫の姿を、人ならざる2人は静かに見守っていた。
主があのように心底から微笑む姿は、久方ぶりに見た。
1人の女性が亡くなって、もうそれを引き出せる者はあの小さな孫だけだ。

「世の中の煩悩が、あれのようだったら。さぞ世は平和だろうて」

微笑ましい光景を見守る勾陣は、同胞に同意を求めた。
返答はない。
だが、聞くまでも無かった。

主以上に優しい目をして、同胞は2人の姿を見守っていたのだから。


 

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